プロポーザル

プロポーザルについて考える 栗原 嘉一郎

(「近代建築」2002年2月)

悪しき入札方式に替わる方式の筈だが

 長期にわたる不況下にあって建設業界は全般に厳しい状況が続いているわけだが、この中にあって設計の受注競争も日々激烈さを増しているようだ。公共建築の分野では‘悪しき’入札を別にすれば、プロポーザルによる選定を勝ち抜かないかぎり設計の機会は得られない感さえある。それだけにこの方式が正しく機能することの重要性は極めて大きいものがあるのだが、現実にはかなり問題があるようだ。時折審査をお頼まれしての経験や、巷に溢れる‘ぼやき’などを通して考えさせられることを、3点にしぼって述べてみたい。

実績偏重・大手組織事務所偏重は不健康

 第一には、その多くが大手の事務所に偏った指名方式で公募方式は極めて少なく、しかも選考過程において組織の規模や過去の実績等が少なからず評価されることについてだ。それもしばしば事務局による機械的採点によってである。これでは、たとえ意欲と実力があっても、歴史の浅い事務所や規模の大きくない事務所には著しく不利と言わざるを得ない。過去の実績が十分でなくても、熱心で優秀な設計者であれば経験の有無を超えて新鮮ですぐれた仕事をする場合も多いことはここで改めて言うまでもなかろう。自動的に大手組織事務所を利する結果となる今の方式ないし運用では、知性と感性に裏付けられた個人の創造力こそが本質的価値として評価されるべき設計界のありようとして、かなり不健康ではないかと感じている。これに設計作業を事務的作業の山と化す危険を孕むように見えるISO9001番の取得の有無を評価に加えるようにでもなれば、もう救いようがあるまい。

 ではこうした状況が大手事務所を喜ばせ活気づけているかというと、必ずしもそうとは言えないようだ。同時にいくつものプロポが重なり合っている状態では、似たような技術提案課題での回答の使い回しはもとよりとして、おのずから、力を入れるものと付き合い程度にとどめるものとに分けてさばくことになる。トップがその選別にかかる政治判断に苦慮するのは当然として、多忙の中を‘付き合い物件’担当に当てられる若手スタッフの‘心’に荒廃の芽が忍び込まなければよいが、と心配だ。

技術提案は建築的構想の提示こそが重要

 第二には、技術提案の求め方において、考え方を問うとの主旨から図面的な表現が原則的に禁止されていることについてだ。考え方を問うこと自体はよいとしても、建築の設計者を選ぶのに具体的な建築的構想力の提示を抑え込むのは奇妙なことだ。「考え方」の提示を求めるとしても、文章によって求めるよりも、当該敷地に対する建築的構想の提示をスケッチレベルで求める方が、どれだけ的確にそれを示せるか分からない。審査の立場に立てばすぐ分かることだが、教科書からコピー・アンド・ペーストしてきたとしか言いようのない、同じような‘立派な’たてまえ的文章の羅列の中からわずかな差異を探しだす作業は、困難というよりは空しさに襲われるのである。本来重い意味を持つ筈の言葉が、軽い乗りでキャッチコピー的に処理され消費されていくのを見せられるのも辛いものがある。そもそも、仮に文章によって考え方の優劣が伝わるとしても、それが直ちに設計能力の優劣を示すことになる保証は何もないではないか。表現へのつまらぬ規制は撤廃されるべきであろう。

事前事後における公開性が不可欠

 第三には、選考の過程に不透明なケースが多いことについてである。審査員名も選考理由も示されないのでは、技術提案に心血を注いだ応募者は救われまい。始めから決まっている出来レースを隠す‘かくれみの’としてのプロポーザルだったなどという暗い噂が絶えないのは建築界にとって不幸なことだ。事実上決まっているものを、プロポーザル形式をとることによって、癒着風評から逃れようとする安易な姿勢が行政側にあるとすれば残念なことだ。長年の付き合いを通して得られた信頼感や過去の実績による安心感を大切にしたいのであれば、若干の調査を経た上で自信を持って特命にすればよいのであり、技術提案等を課してダミーの事務所に労苦を強いるようなことはすべきでない。プロポーザル方式を採用する以上は、募集時における審査員名の公表、審査終了後の審査経過・審査結果・選定理由ならびに優秀技術提案の公表は最低限必要と考える。

実績偏重主義が悪しき入札方式を支える皮肉

 以上だが、最も気になる点は、プロポーザル方式が入札方式に替わるべき有力な方法として登場したこととの整合性についてである。始めに指摘したように、事実上事務所の規模や実績等がものをいうような運用では、それの不十分な事務所が公共建築の設計に食い込もうとすれば、まずは入札に参加し常識を超える低い札を入れることによってでも仕事を取り、何としても‘実績’を積む以外に道はないのである。かくて入札方式とそこでの非常識な水準での落札風景は、一定の意義と暗黙の支持さえ得て生き続けるのである。

ひとつの参考資料

 因みに末尾に加えるとすれば、私自身が審査に関与したプロポーザルにおいては、可能なかぎり上記の問題点の改善を図ってきたつもりだが、個々のケースの改善だけでは致し方なく、このたび社団法人日本医療福祉建築協会において、内部討議を経て、医療福祉施設にふさわしい設計プロポーザル・ガイドラインを作成した。このガイドラインは医療福祉施設のためのと記してはいるが、基本的に上記の問題点の改善を目指したものであり、他の施設への適用にも堪えうるものと思っている。 協会のホームページ上(http://www.jiha.jp/press.html)に公表しているので、参考にして頂ければ幸いである。近代建築Vol.56より。